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特許権って自由競争の妨げにならないの?

オタクのための特許入門

第2講:特許権って自由競争の妨げにならないの?


登場人物の紹介

衛士 巽 (えじ たつみ)
三度の飯よりも発明をするのが好き!という、根っからの発明オタク。男性のような名前とボーイッシュな容姿から、男子と間違えられることが多いが、本人はれっきとした女子校生イケメン女子のわりには、小さいものや可愛いものには目がなく、一目見ただけで反射的に抱きしめたなるくらいに弱い。しかしながら、その歪んだ性癖ゆえに、変態紳士と誤解されることも多々あり。将来の夢は、可愛いメイドロボットを発明して奉仕されること。

兼星 きらら (かねほし きらら)
「きらら知的財産研究所」の所長にして知的財産コンサルタント。だが、その実態は、10歳で弁理士資格を取得した天才少女。小学校に通うかたわら、お小遣い欲しさに年齢制限、学歴制限のない弁理士になった。発明者の巽をロリ○ンの変態紳士と思っている。


前回までのあらすじ


私は、衛士 巽(えじ たつみ)

まわりからはよく、男子のような名前だといわれ、実際に男子と間違えられることも多いが、これでも一応はれっきとした女子校に通う女の子だ。でも、オシャレとか恋愛とか、そういう類のものには今のところ興味は皆無なので、別段女の子であるメリットを感じることは少ない。

私は、家でも学校でも暇さえあればいつも発明に没頭してしているためか、クラスメートは私のことをキテレツくんとかオタク女子とか、あるいは名前を音読みしてエジソンなんて呼ぶ

そんな私が、特許に興味を持つようになったのは、ある意味、当然の帰結ともいえるだろう。

そんなある日、私は大学院の准教授でオタクのおじさんの紹介で、おじさんがいつもお世話になっているという凄腕の弁理士さんを紹介してもらうことになった。

弁理士というのは、特許とか意匠とか商標とか、いわゆる知的財産権に関する業務を行う専門家のことだ。特許申請をするには、いろいろと面倒な手続きが必要になるので、法律にそれほど詳しくない発明者や企業に代わって、弁理士が特許申請などの業務を代行するそうだ。

私は、おじさんが描いてくれた地図をたよりに「きらら知的財産研究所」を訪問することになった。私が想像していたきらら所長のイメージは、カーネル・サンダースのようなロマンスグレーがよく似合う身なりのいい紳士だったのだが、実際に私を待ち受けていたのは、驚いたことにまだ小学生くらいの女の子だった。

なんでも、

10歳で弁理士資格を取得したという天才小学生弁理士

なのだそうだ。

というわけで、どういった縁なのか、私は、この奇妙な関西弁をしゃべるきらら所長から特許法についての講義を受けることになったのだ。



ところで前回、私は、

特許は、何のために存在するのか?


という、いまさらといった感じの超基本的な質問を、きらら所長に尋ねてみた。きらら所長によると、特許法の第1条特許制度の目的が記載されているそうだ。

そこには、以下のように記載されていた。

特許法第1条(目的)

この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。


特許法には、発明の保護だの、発明の利用だの、さながらオブラートに包んだかのようなソフトな表現が用いられているが、きらら所長によると、特許制度というのは、ぶっちゃけ、

自分の発明を独占したい(独占欲)

他人の発明に便乗したい(便乗欲)


という、人間のドロドロした欲望に訴えかけて発明を奨励し、産業の発達という最終目的を達成すべく、国が特別に許可した制度ということだそうだ。

ちなみに、アメリカの旧特許庁の玄関には、

「特許制度は、天才の火に利益という油を注いだ」
(THE FUEL OF INTEREST TO THE FIRE OF GNIUS)


という、エイブラハム・リンカーン元大統領の言葉が刻まれているそうだが、きらら所長ならさしずめ、日本の特許制度を次のように表現するのに違いない。

「特許制度は、天才の火に『独占』という油を、

 凡人の火に『便乗』という油を注いだ」


実際、人間がもつ独占欲と便乗欲の2つの欲望が、アメリカの西部開拓の大きな原動力になったということだ。

たしかに、いかに優れた発想といえども、数少ない天才の力だけでは、産業の発達という大きな目的を達成するのは困難だろう。

天才の優れた発想に、私たち大多数の凡人による便乗

いや、私たち凡人による協力があってこそ技術は進歩する


のだ。

その点を考えてみても、天才と凡人の両方の視点を取り入れて双方のバランスを図った日本の特許制度は、とかく発明者の視点のみから語られることが多い欧米の特許制度よりも格段に優れているといえるだろう。

といっても、以上の説明に私が完全に納得したわけではない。というのも、私には一つの疑問があった。

特許権って自由競争の妨げにならないの?


という疑問だ。

そこで今回は、数本のうまい棒と引き換えに、この疑問をきらら所長にぶつけてみることにした。



その日、夜遅く「きらら知的財産研究所」を訪問すると、きらら所長はデスクで熱心に本を読んでいた。こんな時間まで勉強か……。

さすがは、天才小学生弁理士先生だけのことはあるな

私は感心しながらデスクに近づき、きらら所長が熱心に読んでいる本の表紙を見た。

「発明家に手を出すな」というタイトルの

なんだかよく分からない種類の本だった……


(↓)「発明家に手を出すな」(烏城あきら、キャラ文庫)。
まさしく腐○子にとってのオアシス禁断の果実。この本については多くを語りません。
ただ一言。「読むんじゃない、感じるんだ!」(←おい)

hatumeika_BL

「あの、きらら所長」

きらら所長は、いかにも邪魔されたように不機嫌そうな顔をして私を睨み付けた。

「なんや、お兄ちゃん」

今ものすごくええシーンやったのに……!!

いったいなにが『ものすごくええシーン』なんだか……。

「お忙しいところ申し訳ありません。きらら所長、質問があるんですけど」
「質問? ほんなら、応接室で話そうか?」

きらら所長は、本を机の引き出しの中に丁寧にしまうと、デスクの椅子からぴょこんと飛び降り、パタパタとスリッパを鳴らしながら応接室へ向かった。私も後についていく。

応接室で、私は差し入れに持参したうまい棒5本と、メロンソーダ1本を差し出すと、きらら所長はまんざらでもないといった顔つきになった。どうやらようやく機嫌を直してくれたようだ。

きらら所長が、うまい棒を一通り食べ終えたところで、私は話を切り出した。

「前回の講義で、特許権は独占権っておっしゃいましたよね?」

「そのとおりや」

「でも、いくらすごい発明をしたとしても」

発明を独占してしまったら

自由競争の妨げになるんじゃないですか?


私の質問に、きらら所長はしばしの間、考え込んだ。

「お兄ちゃんの質問は、要するに……」

特定の人に特許権を与えてしまうと

他の人たちが自由に商売できなくなる


「……ちゅうわけやな?」

「まあ、そうですね」

「でも、お兄ちゃん」

そもそもなんで発明を独占したらあかんの?

「え……!?」

予想外の質問に私は思わず言葉が詰まってしまった。当たり前だと思っていることを説明するのは意外と難しい……。私は言葉を選びながら、きらら所長に順序良く説明することにした。

「特許権がなければ、商売人は誰にも気兼ねすることなく自由に商売できますよね。ですから、商売人が商品の売り値を自由に決めたり、自分が売りたい商品を好きな数だけ売ったりすることができるでしょう?」

「そうやね」
きらら所長は、なるほどといった風にうなずいた。

「ですから、たとえばス○夫みたいに、自分の利益しか考えていない悪徳な商売人が商品の売り値を相場の100倍くらいに決めたとしても、同じ商品をずっと安い値段で売ってる良心的な商売人もいるから、良心的な商売人から商品を買えば、私たち買う方としてはなんにも困らないでしょう?」

「そうやな。その場合」

ス○夫は、商品がさっぱり売れなくなって廃業するか

良心的な商売人以下の値段で商品を売るしかない


「……やろうね」

「つまり、商売人が自由に競争することによって、たとえ悪徳な商売人が現れたとしても、私たち買い手は商売人を自由に選ぶことができるから、ス○夫みたいな悪徳な商売人がどんどん自滅していって、最終的に良心的な商売人だけが残るじゃないですか」

「つまり、お兄ちゃんが言いたいことを要約すると、次のようになるんかな……」
きらら所長は、ホワイトボードの近くまで歩いていって、マーカーペンで何やら書き込み始めた。

自由競争にした場合

買い手が商売人を自由に選択できる

より良い商品をより安い値段で買える

悪い商売人(ス○夫)が自滅して良い商売人だけになる

悪い商売人(ス○夫)以外、みんなが幸せになる

最大多数の最大幸福の実現


私はうなずいた。

「でも、ここで特許権を特定の人に認めてしまうとですよ。たとえば……」

ジャイ○ンみたいな強欲な商売人が特定の商品を

すべて独占してしまったらどうなると思います?


きらら所長は深刻そうな顔をして腕組みした。

「そうやなあ、特許権は独占排他権やからジャイ○ン以外の商売人はその商品を売ることができなくなるな。つまり、ジャイ○ンがその商品を独占してしまって、他の商売人は一切手出しできへんから……」

買う方はどんなに理不尽な価格設定でも

結局はジャイ○ンからその商品を買うしか選択肢がないな


「そうするとですよ。特許権によって、他の商売人がその商品を売ることができないから、ジャイ○ンが商品の値段を100倍に設定してしまったら、私たち買い手はその値段で買うしかなくなるじゃないですか」

「ほんま、泣き寝入りするしかないな」

特許権によって、他の商売人は自由に商売できないし、私たち買い手に選択の余地がないから、ジャイ○ンの言い値で商品を買うしかなくなるし、結局、金持ちになって喜ぶのは、商品の販売を独占したジャイ○ンだけじゃないですか」

「つまりは……」

ジャイ○ンの一人勝ちやな!

「たった一人の利益と引き換えに その他大勢の人が不幸になるなんて、どう考えたっておかしいですよ? きらら所長も、そう思いません? 民主主義の基本は、できるだけ多くの人ができるだけ幸福になることなのに……」

「なるほど、つまるところ、お兄ちゃんが言いたいことは、こういうことやね」
そういって、きらら所長は、再びマーカーペンでホワイトボードに書き込んだ。

特許権(独占権)を定めた場合

特許権によって特定の商売人しか商売できない

買い手が商売人が自由に選択できない

悪い商売人(ジャイ○ン)が高い値段で商品を売りつける

悪い商売人(ジャイ○ン)だけが儲かり、他の人はみんな不幸になる

独占的ジャイ○ニズムの実現


「このように考えると、特許権ってむしろ悪じゃないですか?」

私が指摘すると、きらら所長は両手のひらを上に向けて肩をすぼめる仕草をした。
「うーん、お兄ちゃん、わかっているようでいて、全然特許についてわかってへんなあ……」

「え……?」

「今の理屈は、すでに発見された技術に関するものやろ? そら、みんなが使ってる技術を誰かが独占したら、みんなが困るのは当然や。でも……」

発明というのは、いまだ誰のものでもない未開拓のものや!

そういって、きらら所長は、ホワイトボードにマーカーペンで何やら描き始めた。

「ウチが前回あげた例え話をよく思い出してみ。アメリカの西部開拓の話や!」

「西部開拓……?」

「そうや。お兄ちゃんが今いった話は、すでに開拓された領域でこそ成り立つ話や。というのも、フロンティアの内側の世界は、すでにみんなの技術になってしもうてるから、ここで独占したらみんなの邪魔になるのは当然や。でも、フロンティアの外側の世界は、まだ誰のものでもない未開拓の領域や。だから」

未開拓の領域を独占しても、誰の迷惑にもならへんのや!

(↓)フロンティアから遠く離れた未開拓の領域を独占しても、誰の迷惑にもならない。
hatsumei_dokusen1

「お兄ちゃんにもわかるように、身近な例をあげて説明すると、例えば……」

地球から約16万光年離れた大マゼラン星雲を

今の時点でどこかの異星人(ガ○ラス人)に独占されても

ウチら地球人にしてみれば、なんの不利益もないやろ?


「まあ、そうですね……。身近な例かどうかはともかく……」

「それと同じ理屈で……」

技術の進歩が発明に追いついていない間は

独占によってみんなの利益が妨げられることはないんや!


「なるほど、そう考えたら、たしかにそうかもしれませんね」

「もちろん、技術は絶えず進歩してフロンティアが拡大しているから、そのままほっておいたら」

いつかは技術の進歩が発明に追いつくようになるで!

(↓)技術の進歩が発明に追いついたとき、発明を独占すると他人の迷惑になる。
hatsumei_dokusen2

「つまり、特許の場合」

独占それ自体が悪いわけやなくて

フロンティア、すなわち従来技術に近い発明をして

特許を受けることに問題があるんや!


「それはつまり、近い将来、従来技術になるのを知っていて特許を受けるようなものですね」

「いってみれば、確信犯やな! さっきの例でいえば……」

ガ○ラス人が太陽系までしゃしゃり出てきたようなもんや!

警告なしにいきなり波○砲で撃たれても自業自得やろ?


「わかります……なんとなく」

特許権による独占の問題

従来技術から十分に進歩した発明に特許権を与える

もともと、この世に存在しなかった発明なので独占しても問題はない

技術の進歩が発明に追いつくまでは、独占による不利益は少ない

技術の進歩が発明に追いついたときに問題が生じる(発明の陳腐化)


「そこで、特許では技術の進歩によって独占の問題が近い将来に生じないように」

従来技術に対する発明の進歩性の要件を厳しくみるとともに

特許権の存続期間を出願の日から20年に限定しているんや


「なるほど、従来技術に対する進歩性が十分にあれば、当分の間は、技術の進歩に発明が追いつかれる心配もないし、その上、特許権の存続期間を定めておけば、いつか従来技術に追いつかれても独占の問題は生じないですね。でも、特許権の存続期間が切れたら、その後どうなるんですか?」

「特許権の存続期間が切れたら」

その発明は公共の財産として

誰でも自由に使えるようになるんや


「え、本当ですか?」

「結局、特許権を設定しても最後には誰でも発明を自由に利用できるようなるから、最終的に行き着く先は、自由競争の場合と同じなんや」

特許権を設定しても最終的に行き着く先は、自由競争の場合と同じ

技術の進歩が発明に追いつかない間は、発明を独占しても問題ない

技術の進歩が発明に追いついたとき、特許権が切れるように存続期間を規定

存続期間後、公共財産として誰でも自由に発明を利用できる

産業が発達してみんなが幸せになる

最大多数の最大幸福の実現


「そもそも、最大多数の最大幸福の実現のために自由競争を原則とした趣旨を考えたら……」

手段はちがえど最終的な到達地は同じやから

堅いこと言わずに、特許権を認めてもええやないか!


「……っていう理屈や」

「まあ、それはそうかもしれないけど……」

「あと、特許権を認めなかったら、困ることもあるんや! たとえば、医薬品などの発明の場合、発明をしたとしても、実際に医薬品が市場に出るまでに長い開発期間とたくさんの開発費用がかかるから、産業として利用可能になるまでの間に、市場を荒らされないように保護する必要もあるんや

「これは、アメリカの西部開拓のたとえで言うたら」

開拓してから実際の収穫が得られるまでの期間

開拓地を荒らされないようにする


「……ちゅうことや」

特許権がないと困る場合

医薬品などの発明は、長い開発期間とたくさんの開発費用が必要

発明が産業の発達に役立つまでに市場を荒らされるリスクがある

企業が新発明の開発を断念するおそれがある

医学の進歩がなくなってみんな困る


「つまり、発明が生まれてから一人前になって市場に出るまである程度の期間が必要なんや。いわば……」

特許権による保護が

発明のインキュベータとしての役割を果たすんや


「なるほど。発明が一人前になるまでのインキュベータですね」

「また、商品のような具体的な物と違って、発明それ自体、形のないアイデアやから、独占的な性質がそれほど強くないんや。それに、いざというときは、最後の手段として、独占禁止法第100条によって特許権を取り消すこともできるから、特許権の独占によって致命的な問題が生じることもないわ」

特許権による不利益を回避する方法はたくさんある

特許権の存続期間中に技術の進歩が発明に追いついた場合

ライセンス契約や特許権を共有・譲渡することによって発明を利用することも可

より優れた発明を行うことによって特許権を回避することも可

特許権を悪用して不当に独占しても独禁法100条で特許権を取り消すこともできる


「でも、こうやって考えてみると、特許法って、実によく考えられているんですね」

「そりゃそうや! 日本で特許法ができたのは明治18年(1885年)のことやから……」

特許法は120年以上も歴史があるんや!

「え!? 特許法って、そんなに歴史があったんですか?」

「そうや。日露戦争(1904年-1905年)より20年くらい前に作られたんや」

特許法をナメたらあかんでえ!

私の祖父よりずっと年上だったなんて……今までナメていてごめんなさい」

(つづく)

次回予告:
次回はいよいよ「発明」の定義(特許法第2条)について講義します。
「どうしてゲームのプログラムは発明なのにゲームのルールは発明じゃないの?」
乞うお楽しみに!












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